ハウスエージェンシー – 特徴、他の代理店との違い、年収、採用について

広告代理店について、少しでも関わったことのある人や、これから就職・転職を目指す人であれば「ハウスエージェンシー」という言葉を知っているかと思います。「ハウスエージェンシーは大企業の広告子会社でしょ」と思っている人が多いかもしれませんが、現在の広告業界では一概にそうとは言えません。この記事では代理店出身者が、「ハウスエージェンシー」について詳しく解説していきます。

1.ハウスエージェンシーとは何か?


広告業界に関わる人、そしてこれから広告代理店に就職・転職したい人であれば「ハウスエージェンシー」という言葉は知っているかもしれません。

ハウスエージェンシーとは、メインの株主である特定企業の広告を専門的、かつ独占的に担当する広告会社の事を指します。
分かりやすく言うと、「ハウス」とは一つの企業グループのことを意味しています。英語では一つの組織内で行うことを「in-house」と呼ぶため、そのグループ会社の広告をメインで担当する代理店としての関連会社を「ハウスエージェンシー」と呼ぶようになったのです。

ハウスエージェンシーとして有名なのは、大企業を母体とするJR東日本企画(jeki)やNTTアドなどです。JR東日本企画はもちろんJR東日本系列の企業、東急エージェンシーは東急グループ、そしてNTTアドも文字通りNTTグループの広告を担当する代理店です。

2.ハウスエージェンシーと他の代理店の違い


先ほど説明したように、ハウスエージェンシーはグループ企業の広告を行う代理店ですが、他にも違いはあるのでしょうか?この段落では、他の広告代理店の特徴も説明しながら、ハウスエージェンシーとの比較を説明していきます。

(1)独立系代理店とハウスエージェンシーの違い


独立系代理店とは、特定企業の資本が入っていない、まさに独立した広告代理店のことを指します。独立系代理店の代表例は、電通や博報堂などの総合広告代理店です。

もうお分かりの通り、独立系代理店とハウスエージェンシーの最大の違いは、まさに資本元に親会社となるような企業が入っているか否かです。

では親会社の資本が入っている代理店と、そうでない代理店ではどのような違いが出てくるのでしょうか。その違いは広告を担当する会社に出てきます。

例えば、電通や博報堂であれば、広告を担当する企業はまさに多種多様です。いかなる業界・サービスでも広告・プロモーションを必要とする企業であれば、仕事の対象となります。

それに対して、ハウスエージェンシーは資本元の親会社(グループ企業)が主なクライアントとなります。たとえばJR東日本画(jeki)ではJR東日本と関連会社、NTTアドであればNTT東日本・西日本、docomoなどが主なクライアントになるのです。

◆「独立系代理店」についてはこちらもお読みください
独立系の広告代理店って?大手が多い独立系の実態

(2)特定媒体系代理店とハウスエージェンシーの違い


特定媒体系広告代理店とは、特定の媒体(メディア)を有する企業の傘下に位置している広告代理店の事を指します。特定媒体系代理店の代表例は、朝日新聞を親会社に持つ朝日広告社、日本経済新聞を親会社とする日本経済社などです。

そもそも特定媒体系代理店の発祥は、各新聞社の広告枠の取り扱いを行う事業を別会社化したことに始まります。そのため「特定媒体」と言ってもほぼ新聞社系列が多いのが特徴です。ただし、読売広告社(YOMIKO)は現在博報堂DYホールディングスが親会社となっているため、定義では特定媒体系代理店と呼ぶか微妙な状態です。

特定媒体系代理店とハウスエージェンシーは「特定の親会社を持つ」という点において同じですが、特定媒体系代理店は親会社が媒体(メディア)社であることがハウスエージェンシーとの大きな違いです。ハウスエージェンシーは、単に親会社の広告・プロモーションを担当するのに対して、特定媒体系代理店は親会社の持つ広告枠を取り扱っているので、クライアント(顧客)であり、仕入れ先でもあるのです。

◆「特定媒体系代理店」についてはこちらもお読みください
特定媒体社系代理店って?メディアの広告代理店の実態

3.ハウスエージェンシーの企業一覧


まず下図の「日本の総合広告代理店売上ランキング(2015年)ランキング」を見てお分かりの通り、日本の広告代理店上位20社にもハウスエージェンシーが多く入っていることが分かります。

■日本の総合広告代理店売上ランキング(2015年)ランキング

順位会社名売上高(100万円)
1電通1,560,132
2博報堂669,333
3アサツー・ディ・ケイ306,801
4大広115,200
5JR東日本企画107,336
6東急エージェンシー99,324
7読売広告社73,318
8デルフィス67,091
9電通東日本47,031
10電通九州43,263
11クオラス41,108
12朝日広告社39,853
13JR西日本コミュニケーションズ35,259
14日本経済広告社33,999
15フロンテッジ28,460
16オリコム26,826
参考:広告経済研究所「広告と経済」

ではここからは具体的なハウスエージェンシーの企業を見ていきましょう!

(1)JR東日本企画(Jeki)


JR東日本企画は、JR東日本を100%株主に持つハウスエージェンシーです。ただし、近年ではJRグループ以外の一般企業のクライアントも増えており、さらにはJRの電車内・駅構内のデジタルサイネージや駅貼りポスターなどの広告枠の取り扱いも多く、一概に「ハウスエージェンシー」と呼べるのか難しくなっています。

つまり、親会社以外の一般企業のクライアントを持っているという点では独立系広告代理店とも呼べるし、JRグループの広告枠を使っているという点では特定媒体系代理店と呼べなくもないのです。それに加え、有名なところではアニメ「ポケモン」、「君の名は。」などの映像制作の企画にも携わっているので、ますます独立系の総合広告代理店に近い存在になりつつあります。

(2)東急エージェンシー


東急エージェンシーも、JR東日本企画と同様に、鉄道の東急電鉄を親会社に持つハウスエージェンシーです。東京・神奈川では圧倒的な存在を示す鉄道会社ではあるものの、JRに比べれば親会社の規模がそこまで大きくなかったことも背景に、早くから一般企業も対象とした広告営業活動を行っていました。そのため、最近になってJekiに抜かれたものの、これまで久しくハウスエージェンシーの中でトップの売上を誇っていました。

(3)デルフィス


デルフィスは、トヨタ自動車を親会社に持つハウスエージェンシーです。日本そして世界を代表する自動車メーカーであるトヨタグループの広告・プロモーションを手掛けているので、主に自動車業界に強みがあります。

(4)NTTアド


NTTアドは、文字通りNTTを親会社に持つハウスエージェンシーです。NTT東日本・西日本だけでなく、docomoドコモ、そしてNTTコミュニケーションなどグループ企業の広告を数多く手掛けてきましたが、最近では一般企業や官公庁の広告にも積極的に進出するようになってきています。

(5)フロンテッジ


フロンテッジは、ソニーと電通の合資により作られた広告代理店です。歴史的には東急エージェンシー100%子会社だった時期もありましたが、現在ではソニー60%、電通40%という出資比率となっています。世界的企業であるソニーが親会社であることもあり、シンガポールにも支社があります。

(6)アイプラネット


アイプラネットは、三菱電機を親会社に持つ広告代理店です。多くの関連会社も持つ三菱電機グループをはじめ、近年では一般企業の広告・プロモーションも手掛けています。

4.ハウスエージェンシーの働く環境は?


では、ハウスエージェンシーで働く環境は実際どうなのでしょうか?ここでは年収面や業務の忙しさなどから労働環境をみていこうと思います。

(1)ハウスエージェンシーの年収

当然のことながら、ハウスエージェンシーの年収は、勤務する会社によって変わってきますので、一概には年収を語ることはできません。ですのでハウスエージェンシーの中でも有価証券報告書などで年収を公開している会社から大まかな年収水準を見ていこうと思います。

ハウスエージェンシーの年収は、20歳台は約400万~450万、30歳台は約500~600万、40歳台は約650~750万、50歳台は約700~800万となっています。ただし役職によっても年収は変わってきますので、上記の年収はあくまで目安として見て頂ければと思います。

さらに、ハウスエージェンシーの年収は、親会社(資本元の企業グループ)の水準も加味される場合がありますので、もし就職、転職しようと考えている人は、ハウスエージェンシーだけでなく、親会社の年収水準も確認しておくと良いでしょう。

実際、ハウスエージェンシーの友人に聞いてみたところ、親会社が大企業の場合が多く、親会社の給与水準から大きく離れた金額を提示することは無いと言っていました。なぜならばハウスエージェンシーには資本元の親会社から出向してくる社員も多く、もし給与水準が全く異なると社内で大きな給与ギャップが生じてしまうからです。

巨大企業、有名企業が親会社となっているケースが多いハウスエージェンシーの福利厚生は、一般的には充実していることが多いです。

(2)ハウスエージェンシーにおける業務の忙しさ


ハウスエージェンシーにおける業務の忙しさは比較的緩やかだと言われています。
なぜならば、独立系総合代理店(例えば電通・博報堂など)は常にクライアントを獲得していかなければならないのに対して、ハウスエージェンシーには親会社というクライアントが常に存在しています。

そのため広告代理店での激務の一因となるコンペが少なく(場合によっては無い)、比較的忙しさは緩やかです。
※もちろんコンペが全く無い訳ではありませんし、時期によって激務になる場合もありますので、あくまでも「比較的」という事です。

5.ハウスエージェンシーに入社するには


ハウスエージェンシーに採用されるにはどうすれば良いのでしょうか?ここではハウスエージェンシーへの入社方法について、ポイントを説明していきます。

(1)大学・学歴


広告代理店であるハウスエージェンシーへの入社条件に、大学名や学歴は関係しているのでしょうか?
全く関係していないといえば嘘になりますが、総じてあまり影響していないことが多いです。ハウスエージェンシー勤務の友人A氏に確認しましたが、新卒採用では大学がMARCH以上であることが多いようですが、中途採用となるとほとんど学歴が関係なくなるそうです。

というのも新卒採用では(有名代理店であれば)数千人規模のエントリー・応募者があり、選考自体が非常に大がかりになるため、大学名や学歴で「足切り」することが必要となってくる場合があるのです。

しかし中途採用ともなれば、多くて年に数百人、少なければ数十人という応募者です。さらに、これまで何かしらの広告関連業界で働いてきた経験者の場合が多く、大学名・学歴より実際働いてきた実績や実力などがもっとも重要となります。

(2)コミュニケーション力


コミュニケーション力はハウスエージェンシーだけでなく、独立系代理店、メディア系代理店など他の広告代理店でも同じように重要な能力です。

広告代理店は自社の商品・サービスを持っている訳ではない場合が多く、未だに利益の大部分は広告仲介業となります。
つまり広告代理店とは、クライアントのコミュニケーション課題に沿って、「広告・プロモーション」という無形の商材を、クライアントと媒体社の間に立って調整し、広告を出稿する立場にあります。

その企画、調整、出稿という業務は、コミュニケーションなくしては成り立ちません。如何にクライアントや媒体社、そして社内や協力会社をコントロールしていくか、という部分に代理店の醍醐味があります。

(3)広告業界の理解


先ほどの「(2)コミュニケーション力」で述べた通り、ハウスエージェンシーに入社するためにも、広告業界の仕組みや収益構造を理解することが重要です。

新卒入社を目指す大学生であれば実務経験がないので、あまり実感が湧かないかと思いますので、本や参考書で勉強する以外にも積極的にOB訪問をおこなって諸先輩たちの意見を聞くようにしましょう。

逆に、転職者であれば、何かしらの広告業界での経験がある方が多いでしょうから、この部分については大丈夫かと思います。

(4)企業分析と親会社の商品・サービス理解と見解

面接
私見ながら、もっとも重要なポイントだと思っているのがこの部分です。
例えば、JR東日本企画であればJR東日本が大きなクライアントになりますが、最近ではJR以外の一般企業のクライアントが増えていますので、この原因(背景)や取り組み事例、そして今後の方針に関しても、ある程度知っている必要があります。

さらには、採用を目指すハウスエージェンシーの方針を踏まえたうえで、「もし自分であればもっとこうしたい」という独自の意見・見解を持つことが重要です。
例えば、NTTアドであれば、NTT東日本の企業広告に対して「もし自分であれば、イチローを企業広告だけなく、サービス名やキャンペーンなどに利用してフレッツなどの契約者をふやしたい!」とか、東急エージェンシーであれば、「SHIBUYA2020に向けたVRアプリなどをつくって、渋谷をアピールしたい!」といった意見を持つことが重要です。

6.ハウスエージェンシーの未来


これまで見てきた通り、ハウスエージェンシーは、資本元に親会社がいる広告代理店で、親会社が主なクライアントとなるケースが多いです。ここでは、今後のハウスエージェンシーの展望について考えていきたいと思います。

現在、JR東日本企画、東急エージェンシー、そしてNTTアド等も、親会社の広告事業だけなく、一般企業の広告案件も手掛けるようになってきています。特に東急エージェンシーはその取り組みが早く、90年代から一般企業のクライアントも多かった経緯があります。

結論から言うと、今後のハウスエージェンシーはさらにこの傾向に拍車がかかることが予想され、親会社の広告案件比率が低くなっていくことが予想されます。同時に、各ハウスエージェンシーの親会社の資産を見直した独自のメディア開発などをおこなっていくものと思われます。
その理由を説明するためには、ハウスエージェンシーの過去、現在も振り返る必要があります。

(1)ハウスエージェンシーの設立~拡大


ハウスエージェンシーが数多く設立されていった高度経済成長期までに、企業の規模は大きく拡大していき、それまで一事業部であった広告・広報部の規模が大きくなっていき、子会社化(関連会社化)しました。

子会社したことにより、広告分野での専門性が高まり、責任・権限もハッキリし、さらには連結制度を利用することで損益の調整も行いグループ全体の節税対策にもなる、というメリットもありました。つまり、そこには「子会社化することが企業グループ内で利益を保持する」という明確なメリットが存在し、ハウスエージェンシーはその一端として生まれた背景を持っていました。

しかし、子会社化されたハウスエージェンシーのデメリットは、常に親会社という盤石なクライアントがいるため、市場競争に晒されず、いつの間にか専門性が高まるどころか広告業界の中で徐々に実力で後れを取り始めたところにあります。

さらに追い打ちをかけるように、バブル崩壊後に業績が悪化し始めた親会社は、広告分野に対しても明確な結果を求めるような傾向となっていきました。そのため、たとえ身内であるハウスエージェンシーであっても良い広告を提案できないのであれば、ほかの広告代理店に任せたいという流れが出来上がっていきました。これが近年までのハウスエージェンシーの流れでした。

(2)ハウスエージェンシーの逆襲と現在


現在、一度失ってしまった広告代理店としての実力を今一度高め、売上の低下に歯止めをかけるためにも、ハウスエージェンシーは一般企業のクライアントに対して積極的に営業を仕掛けるケースが増えてきました。

実際私が代理店に在籍していた時代でも、最近になってハウスエージェンシーはこれまで参加していなかった一般企業のオリエンやコンペにも参加し、積極的に自主プレまで行うようになってきました。

さらに復活を期するハウスエージェンシーが取った手法は、インターネットによる媒体力の強化です。例えば、JR東日本企画はJR東日本、東急エージェンシーであれば東急電鉄における媒体(メディア)取り扱い窓口でもあります。

最近ではよく目にする駅貼りポスターや電車内広告がディスプレイ表示に変わっている場面を見たことはありませんか?あれらの駅貼りポスターをディスプレイ化して販売しているのが、ハウスエージェンシーであるJR東日本企画であり、東急エージェンシーなのです。

(3)これからのニューハウスエージェンシー


これまで見てきたような打開策を取れなかったハウスエージェンシーは徐々に衰退していき、一般企業も含めたクライアントを持つハウスエージェンシーのみが生き残っていくものと予想されます。

そして今後のハウスエージェンシーの浮沈を左右するのは、親会社が持つ顧客データ、つまりビッグデータをどう生かしていくか、という点にあると筆者は個人的に考えています。

というのもハウスエージェンシーだけでなく、独立系総合広告代理店も含めて、これからの広告業界では顧客データを持っている代理店が生き残ります。これまで顧客をセグメント化されないまま広告が出稿されてきたオールドメディアであるTV、新聞・雑誌、ラジオは必ずインターネットと繋がります。この土俵では、如何に詳細で、正確な顧客データを持っているかが広告としての価値を左右します。

ハウスエージェンシーとしての価値は、まさに親会社であるJRや東急やNTTなどが保有している顧客データであり、それを広告としてうまく活用できる代理店こそが「ニューハウスエージェンシー」として、今後の広告業界で勝ち残っていく企業だと考えています。

                     

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私は有名な大手2社ではありませんが、国内上位5社に入る広告代理店で営業(アカウントエグゼクティブ)として3年前まで働いていました。その経験から、あまり世の中では語られていない広告代理店の具体的な仕事内容や実際の過酷さについて正直な記事を書いていきます。